※19話視聴直後の、まなかが目覚めたとして、という妄想です
この5年間、ずっと紡くんとおじいさんと暮らしていたのだというちーちゃんは「一緒にはいたけど、紡とはなにもないから安心して」と笑った。あるわけないじゃない、と。
でもね。でもねちーちゃん。わたしにもわかることがあるんだよ。にぶちんでひーくんの気持ちにも気づけなかったわたしだけど、ちーちゃんと紡くんが同じ目をしてるのは、わかるの。
「紡くんは、大人になったね」
「向井戸は変わらないな」
「寝てただけだからね」
ひーくんのおうちで寝ていたところにお見舞いに来てくれた紡くんと、そんな他愛もない会話をする。
「紡くんのおうちで、ちーちゃんどんなふう?」
「どんな、っていわれても。普通だよ」
「ご飯作ったりとか、お掃除したりとか、お洗濯とか、上手?」
「比べる相手がいないからよくわからない。ただ俺よりはうまいんじゃないか」
「そっか」
紡くんは自分で気づいてるのかな。ちーちゃんの話をするとき、とっても優しい顔になること。5年前、もっと幼かった紡くんを記憶のキャンバスに描き出してみるけれど、そんな表情の紡くんはどこにもいない。ここにいるのは、まなかの知らない紡くん。
まなかじゃない誰かを好きな紡くん。
「紡くんの目」
「目?」
「とっても綺麗だね」
「そうか」
「うん。綺麗すぎて、見れないなあ……」
隠そうとして俯いたはずなのに、堪えきれなかった涙はあっけなくぱたりと膝に落ちてしみを作った。慌てて瞬きしたら、続けてふたつ、みっつとこぼれてしまった。
「向井戸?」
伸びてきた手がまなかのむき出しの肩にふれた。ごつごつした男のひとの手の感触が、あの頃とはなにもかも変わってしまった現実をまなかにつきつける。
きらきらと眩しい海辺に浮かぶのは、幸福なだけの過去の世界。今、窓の外から見える景色はすっかり灰色なのに、願うように思い浮かぶのはそんな戻らない日々ばかりで。
「ごめんね、なんでもないの。なんでもないから。ほんと、だから」
言った傍から声はふるえて言葉を裏切り消えていった。せめてもの抵抗に顔を上げて笑って見せたら紡くんは困ったような顔をして沈黙した。そんなにひどい顔してるのかな、わたし。
ちーちゃんならこんなときどうするんだろう。わからない。わからないよ。だってわたしはちーちゃんじゃない。紡くんの好きなちーちゃんにはなれない。
心臓のあたりが強く痛んだ。呼吸ができなくて、もうエナはないのになにもかもが渇いていく感じがした。ただ両の目だけがほとほとと落ちる涙で濡れていた。
わたしたちはダイアモンド
14/02/15
title/春告げチーリン