例えばよ。例えば 殺しが救いになるってこと あるのかしら。
決して泣かないであろう彼女の声はもちろん涙にぬれてなどいなかった、唐突に泣き出すシーンでもないはずなのに それでもデゼルはエドナが泣いているんじゃないかとふつりと思った そんな気がした。
小さな肩は砂糖のようなましろ色。ふるえもしていないその肩がああどうしてこんなにさむそうに見えるのか 見えたってデゼルがその肌に手を伸ばすなんてことがあるはずもなくて、誤魔化すように夜空に浮かぶ星をよっつまで数えて気持ちを逸らした ましろの肩は視界の隅で動かなかった
お前は今何を考えているんだと問うべきか沈黙すべきかわからなかった 彼女が安易な同情のことばを求めたりなどするはずがないのは百も承知だったから。それでもなぜか今日だけは 今だけは まばゆいくらい星が綺麗なこの夜だけは 少しだけ、エドナが軽率な優しさを求めているように思えて。
お前は兄を救ってやりたいんだなと呟いていた、無意識だった。無意識であったことを自覚するのと同じタイミングで エドナはデゼルよりずっと小さな声で 悪い、と問うてきた(ああやっぱりお前泣きたいんだろう)声を上げてこどもみたいに泣きじゃくって おにいちゃんおにいちゃんって ばかみたいに呼べば兄が助けに来てくれるんじゃないか はるか遠い記憶のなかの兄がいつだってそうしてくれたように、お前が泣き止むまでずっと腕のなかに閉じ込めていてくれるんじゃないかって そう願っているんだろう 心の内側はそんな悲しい祈りでもういっぱいなんだろう 今縋りたいのは冷たい傘の柄なんかじゃなくて 温かな兄のてのひらなんだろう、
デゼルはエドナの兄でもなければスレイでもない たぶんエドナにいちばん、優しくない存在だ 優しくなんてできるはずがない そんなの俺の役目じゃないから 俺の両手は誰かを支えるためじゃなく 血に濡れるために存在しているから
けれど今日だけは 今だけは 哀しいくらい星が綺麗なこの夜だけは 少しだけ 軽率な優しさを見せてやってもいいんじゃないかと思えて。
「声をかける奴を間違えたな」
ぽんと エドナの頭に手を置いて もしかしたらひどく不器用な仕草で 彼女の頭を撫でてやった てのひらの下でさらさらと流れる髪の感触が心地良かったから デゼルは空を見上げる 空に散る星たちを集めて砕いて砂にして そうしたらきっと こんなふうにさらさらとこぼれていくんだろう きっと、きっと。



星の砂




20150129