八瀬博臣×新庄愛



本当に、本当にどちらともなくこの関係は始まったから。きっとどちらともなくこの関係は終わるのだろう なくなるのだろうと、愛はずっと考えていた。
「浮かない顔だね?」
いつのものように飄々と問う先輩の顔がとっても近かった。すっと流れる切れ長の瞳の真ん中に愛の姿を見つけて心のなかだけで嬉しくなる。このままその瞳の黒に溶かして愛だけを閉じ込めてくれていたらいいのに いつかの終わりが来てしまう前に、はやく。
「先輩」
「なんだい」
「妹さんのこと、どれくらい好きですか?」
我ながらばかな質問だ。だってほら、もう彼の瞳はくるりと光って、愛ではない輝きを宿してしまった。ねがいごとは叶わない。
「うーん、そうだなあ」
先輩の視線は遠くへ向けられて きっといろんな美月先輩を追いかけていく。不機嫌そうに頬を膨らませた顔、照れてそっぽを向いた顔、無邪気に笑ってみせる顔、たぶん先輩しか知らない、声を上げて泣く顔。きっと万華鏡を覗くみたいな気持ちなのだろう。先輩のくちびるはほんのりと笑みを浮かべて、きらきら きらきらして見える。
答えは最初から期待していなかった。先輩もきっとそう。考えてみせるだけ 答える気はない。明確なものを愛たちの間によこたえたらそれが線引きとなって息ができなくなってしまうんだろう。溺れてしまうんだろう。
「なら、愛のことはどのくらい?」
やっぱりばかな質問を重ねたら、先輩が愛を見て笑った。
「美月と同じくらい、可愛いと思っているよ」
きらきらは見えなくなって、代わりにもたらされたのは頭を撫でる大きな手のひら。冷たい 冷えたてのひら。
「えへへ、嬉しいなあ」
なんて耳に優しいそらごとだろう。確かな言葉は、首を絞めるだけ。曖昧模糊に指を絡めて肩を並べて、目を合わせることなく微笑み合えたらそれでいい。それでいい、はずなのに。小さな胸の疼きを感じて、愛はもう一度 嬉しいなあ とつぶやいてみる。つきんと心臓がひとつ啼いて、愛は薄く笑ったまま自らの胸を見下ろした。
痛いなあ。
欲張りになるほどにこの心臓は、なんて痛むんだろう 欲しい欲しいと泣き声を上げるのだろう。決して誰にも届いてはいけないのに想いなのに、どうしてどんどんと思いの丈は増して いつしか飲み込むことすら困難になってしまったのだろう。
痛みに耐えかねてどちらともなく来るであろう終わりをこのくちびるでもたらすか 曖昧にすべてを委ねて今に甘んじるか。愛は馬鹿ではないから、どちらがいいかなんて考えずともわかっていた。だからこそ痛くて痛くて仕方がなくて、愛はへらと笑った。



花にもなれぬ、月にもなれぬ



2013/11/25