セネル×シャーリィ
白昼夢という言葉があるように ひとは真昼にだって夢をみるんだって、嘘みたいな本当のはなし。だってだって これがゆめじゃないって言うんなら、いったいなんだって言うんだろう。(数秒間、あるいはわたしの命の数すべてを賭けた時間感覚の停止 それから喪失)太陽がまぶしくてわたしには見えないの。あなたも風も風船もアイスキャンディーのとろけたひとしずくですらぜんぶぜんぶマーブル模様に混ざって 訪れたのは 白。塗りつぶされて まっしろで。シャーリィ、そう呼んでみせるお兄ちゃんの声は汗ばんでいたから 初夏の爽やかな煩わしさ雨の透明さ憂鬱な紫陽花の群生たち そんなものがいっしょくたになってまっしろなはずのわたしのまぶたを一瞬だけ通り過ぎていった。わたしはそれらを追いかけた果てに広がる真っ青な海に身を投げる妄想で沈んでいく 夢ならばこのまま目覚めたりしてしまわぬように。記憶という本に挟んだ栞をむしゃりと食んでこんと飲んで そうしてしまえば終わりも始まりもあいまいにわからなくなってしまうんじゃないかって(愚かな逃避としりながらわたしは微笑んでみたのです)(これはわたしが描いたわたしのための寓話だって)(おもいしることをこの心臓はおそれたのです)シャーリィ と お兄ちゃんの声がもう一度わたしをよびました。なあにおにいちゃん。わたしなにもききたくないよ。冗談だよ、なんてわらうおにいちゃんをみたくないよ。幸せなゆめなら幸せなままでどうしておいておいてくれないの? お腹いっぱいで食べ残した朝ごはんのハムエッグなんてもうたべたくないの 冷め切って苦味の増したコーヒーなんて一思いに捨ててしまいたいの。なにもかもふたたび見たくもないし聞きたくもないしなにも言いたくない、ながいながいまつげの先にそんな想いの雫を託してまばたきしてみたら、強くなった日差しの下でおにいちゃんはきらきらのめを細めるのです。ほしくずの踊るそのめが好きだった。星の輝くちいさな宇宙をおにいちゃんはふたつももっていて、羨ましいってずっと思ってた。羨望は憧憬にかわり わたしはいつの間にかそのまなざしにとらわれて動けなくなっていた。人魚姫は海での呼吸を捨てて王子さまと結ばれたっていうのにわたしはどうだ 息もできないまま惨めに地を這い彼というひとつの存在に縋り生きて裏切って傷ついて傷つけて縛り付けてそれでもなおあいしてと叫んでやまないあいして あいしてあいしてあいしてわたしをみてわたしだけみてわたしだけ わたしだけ 呼吸とともに声を奪われた人魚姫に想いをつたえることはゆるされないからただひたすらに慟哭のみがわたしの肺をつきやぶって無味乾燥なあいそわらいに針をとおして無理やりに傷を繕った 繕い続けた それでもあなたがそこにいてくれるなら。てをにぎれなくたって ふれあう肩の感触だけでいきていけるって おもっていたんだよ、わたし。(なのにあなたは)
おにいちゃんがもう一度あさく息をすったとき きん と耳鳴りがした(やめてきこえない)ちがう、わたしはききたくない(おにいちゃんのくちびるは乾いていた)耳鳴りはどんどんひどくなる わたしは眉をひそめる(なみだがあふれそうだったからじゃない)最初のもじが おとが(ほんとうよほんとうほんとうだってば)おちる(のは、声か、なみだか)
あなたにね、
泣きすぎだよと
わらってほしいの
永遠だと思うくらいずっとずっと恋焦がれていた三文字は世界でいちばんやさしくて世界でいちばんわたしのむねをひきさいて すべての記憶を気持ちを残骸をあなたの色で染め上げた。きずぐちからあふれるなみだとなみだとなみだが世界でいちばんいとしいあなたに教えてあげてくれたらいい。わたしがどれくらい世界でいちばんしあわせだよっておもっているかつたえてくれたら このしずくはきっともっととくべつなものになるのでしょう。
140505
title:天文学