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ベッドに沈んだシャーリィはまるで、おとぎ話に出てくるお姫さまだった。しずかにしずかに呼吸をしながら、昏々と眠り続ける悲劇の姫君。窓から射し込む冴えた月光がシャーリィの頬をやけに鋭利な白さにするから、セネルの胸に冗談のような一抹の不安が浮かぶ。「シャーリィ」病的にしろいシーツに黄金色の髪が泳いでいた、うつくしいと思った(そしてそれが恐ろしいとも)恐ろしい。人形のような彼女が音をたてて壊れてしまいそうで恐ろしかったのだ。生ぬるいようなシーツを握り、シャーリィの横に腰を下ろす。セネルの体重にかすかにベッドが鳴いた。それでもシャーリィはまぶたを上げない。心臓がどくりと鼓動した。「シャーリィ」声がふるえた。覗きこめばシャーリィの上に自分の影が落ちた。けれどシャーリィの睫は、ふるえない。もう一度名前を呼んだ。目覚めない。もう一度。目覚めない。もう一度(お願いだから)もう一度(頼むから)もう一度(敵わないならならいっそ、一緒に) 「うそ」 シャーリィが、笑った。 ようやくのぞいた海色の瞳は凪いでいた。それはセネルをあざ笑っているわけではなかった。しずかに、ねむるように、ゆっくりと、彼女は、意識を閉ざそうとしているのだと思った。「ごめんねお兄ちゃん、驚いた?」声色だけはいつもと変わらぬ優しいようすで、ただし夜に似合うよう少しだけ声をひそめて「だいじょうぶ」そう、ささやいた。(なにが)セネルは声を失くしていた。もつべき言葉を持たなかった(なにが大丈夫だというんだ)漏れた吐息には熱があった。 もしもこのとき、心を割って 硝子のような言葉で傷つけあっていたら、今みたいに遠い場所で傷つきあうことはなかったのかもしれない。 誰かの悪意にさらされ幾年もの間眠っていた眠り姫に目覚めをもたらすのは王子の幸福なキスだった。あの夜、もしもセネルがシャーリィの傷口にくちづけられたなら、彼女の肩を抱いていたなら、シャーリィは世界を――セネルを、拒絶せずにいてくれたのだろうか、なんて(なんてくだらないたとえばなしだろう) もうとりかえしなどつくはずもないのに。 |
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150130 title:天文学 |